ユートピア 「1話 真吾の中の悪魔くん」


「水臭いじゃないか、悪魔くん。また実験するなら僕も手伝うよ」
 東嶽大帝を倒し、当面の平穏は手に入れたはずだ。少なくとも、今のところは。空は澄み渡っているし、命を狙われることもない。だから貧太の言葉に、真吾は「なんのこと?」と肩をすくめてみせるしかなかった。
「なにって、学校裏の林にある魔法陣、悪魔くんが描いたものじゃないのかい? すっごく沢山あったよ。見たこともない形だから、てっきり悪魔くんが新しい魔法陣の実験でもしてるのかと思ったんだけど」
 真吾は頭の奥がすうっと冴えていくのを感じた。十二使徒と共に戦っていた頃のあの「悪魔くん」としての鋭い感覚が蘇り、真吾の背にぞくりと震えが走る。時代は繰り返す。使い古された不吉な言葉が頭をかすめ、まだ幼いメシア真吾を不安にさせた。よく分かっていたはずだった。平穏はいつの時代もそうそう長続きした試しはないということくらい。


 貧太の言葉通り、大小様々な形の魔法陣たちの残骸がそこにあった。だが召喚術に長けた真吾の目から見ると、どれもこれも継ぎはぎだらけのまがい物で、とても実際に悪魔を呼び出せたとは思えない。わずかに感じられる懐かしい闇の香り、禍々しい気配の名残に真吾は目を細めた。
「たぶん、昔の僕みたいに悪魔召喚に夢中になってる人がいるんだと思うよ。でも、これじゃ無理だ。それより気になるのは……」
 まるで呪いのような胸の悪くなる思念の残りかすだ。
 素人が興味本位で黒魔術に手を出しただけならいいのだが、真吾の中の「悪魔くん」としての叡智と経験が警告を発していた。懐かしい彼ら、十二使徒を召喚する時が来たのだろうか? 再びソロモンの笛を吹き、魔術を操り黒悪魔と戦う時が来てしまったんだろうか?
 だが真吾はそっと息を吐くと、その予感を振り払った。きっと、なんでもない。あんなに苦労して、大切な十二使徒と共に死闘を繰り広げてやっと手に入れた平穏なんだ。それがこんなに簡単に破られてたまるもんか。
「気になるのは?」
 貧太の声にはっと我に返ると、真吾は無理やり作り笑いを浮かべた。
「いや、やっぱりなんでもないよ。ほら、今オカルトブームだしさ、きっと誰かが遊びで描いたんだよ」
 この時の選択を真吾はこれ以上ないほど悔やみ、自分を責めることになるのだが、それはまだしばらく先のことだった。


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2007/09/22

悪魔くんのその後です。悪魔くんのアニメ最終回その後がどうしても気になって、というか寂しくて、とうとう自分で書いてしまいました。なんだか、長くなりそうな予感……私は一人でにやにやしてますが、一緒に楽しんでくれるとうれしいです。
また十二使徒と一緒に困難に立ち向かう悪魔くんが見たいなあと妄想してます。メフィスト二世とか、まんまるの顔で可愛いかったなあと和んでます。ソロモンの笛のCDとかあったら買いたいです。あれは癒されます。それよりもまずDVD化希望です!